「文学者と近代の超克」ワークショップでは、1930年代の日本における近代再考の言説を再検討する。この時期は、世界大戦や経済不況により西洋中心的な近代の限界が露呈する一方で、植民地における独立運動が活発化し、アジアにも目を向けざるを得ない時代であった。それは近代的な国民国家の秩序を問い直し、台頭するアジアとどう向き合うかという問題を投げかける。もちろん、そのなかには日本中心的な思想に陥り、「近代の超克」のような袋小路に入ってしまったものも少なくないが、同時にそのような枠組みに収まりきらないテクストが見られるのも事実である。本ワークショップでは、そのようなテクストの可能性を問題にすることで、当時の近代再考の言説を再検討し、今日の東アジアの問題を考えるうえでの一つの参照点としたい。第一回は、横光利一を取り上げる。
講演者:金泰暻(高麗大学)
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ディスカッサント:位田将司(早稲田大学)
横光利一の『旅愁』は、時局に迎合したナショナリズム小説として断罪されてきた。しかし、それは『旅愁』のもつ問題系を十分に検討することではない。本ワークショップでは、『旅愁』における科学や建築に関する表象を問題にしながら、そのテクストのもつ可能性を再検討する。横光は、非ユークリッド幾何学や相対性理論等、当時の最新の科学的言説を用いて既成の論理を相対化しながら、テクストのいたるところで建築の問題を取り上げている。例えば、作中人物が、ゴシック建築の代表であるノートルダムと俳句の相似性を見出すのはなぜか、伊勢神宮の「鳥居」と近代の「トンネル」の差異は何を意味するのか。このような表象に着眼しながら、本ワークショップでは、ポストコロニアル的な視点から横光利一の『旅愁』を再検討していきたい。
使用言語:日本語
入場無料・事前登録不要